車自体がパソコンの筐体だ
では,コンピュータカーの心臓部である,後部車室に搭載するパソコンそのものについて考えてみよう。
今回製作する「Mobile Computing Car」では,デスクトップやミドルタワーといった既存の筐体をそのまま載せることは考えていない。後部車室内のパソコン用スペースにマザーボードを収納し,通 常筐体前面にあるFDDやCD-ROM用のドライブベイと,背面にあるパラレルやシリアル,USBといったインタフェース,それに拡張スロットを,すべてユーザー側に向かって設置しようと考えている。つまり,パソコン収納スペースが筐体になるわけで,あえていえば車自体をパソコンの筐体として利用しようというのである。
パソコン自体の仕様としては,次のようなところを考えている。映像や音楽といったAV機能を追求するということから,CPUにはそれなりの処理能力を求められる。そこで,PentiumIIIあるいはAMD K6-IIIクラス,動作クロックは最低でも400MHz以上は欲しいところだ。また,大量 のデータを処理することになるので,メモリは最低でもPC/100対応の128MBくらいは必要だろう。
ハードディスクは,音楽や映像など大容量データをCD-Rに書き込むことを考えると,システムおよびアプリケーション用とデータ用に分けるほうがいいだろう。容量 は,システム・アプリケーション用が4~6GB程度,データ用は8~10GBくらいは欲しいところだ。
一方CD-Rは,車両という過酷な環境を考えると,高速書き込みは信頼性に不安が残る。価格との兼ね合いにもなるが,4倍速書き込み/8倍速読み出し程度で十分だろう。カーオーディオ製品と違って,震動や衝撃を受けやすく高温になるという劣悪な環境での使用が想定されていないことを考えると,これで安心だとはいえないが,そのあたりの対策については次回以降に詳しく述べることにする。
拡張スロットに差すのは,AGP接続のビデオカードのほか,PCI接続のビデオキャプチャーカード,サウンドカード,SCSIカード,LAN用のネットワークカードといったところ。IRQを節約するためにも,ハードディスクやCD-RはSCSI接続に統一しておきたい。
AV仕様という意味では,ビデオまわりとサウンドに,最新かつ強力な環境を用意しておきたい。ビデオカードは,最新のチップが次々と登場していることから,装着する時点で再度候補を検討するとして,サウンドに関しては「Sound Blaster Live!」を考えている。車の中で,4チャンネルサラウンドの音空間が楽しめるはずだ。
ノートPCでパソコンGPS
後部車室に設置するパソコンについては以上だが,走行中にカーナビ代わりに使うには不自由だ。そこで,もう1台ノートPCを助手席に装備したいと考えている。
カーナビ代わりのパソコンGPSと,情報収集のためのインターネットアクセスができれば十分なので,Pentium/200MHzクラスの旧型機でもかまわないが,見やすさのために800×600ドット以上のTFTカラー液晶画面 は欲しいところだ。PCカードスロットにはGPSアンテナとLANカードは必須だが,さらに携帯電話やPHSを接続したいと考えるとスロットが足りなくなるので,コンボカードを使ったり,後部車室のPCにLAN接続することで解決を目指すことにしよう。
LAN用のハブには,ちょうどいい製品を見つけた。アイ・オー・データ機器製「ET-MPS」だ。この製品は,簡単にいうと「ISDN用IPルーター」からISDN回線につなぐためのTA機能を外し,代わりにRS-232Cを付けたもの。携帯電話やPHSなど接続する通 信機器を限定しないため,拡張性が高い。
パソコンを車載するための問題点と解決策
さて,基本的な方針と大まかな仕様は以上のとおりだが,実際に製作する段階ではいろいろな問題が起こってくるはずだ。そこで,パソコンを車載するときに発生するであろう問題点とその解決策を考えてみよう。
●電源 電源部の問題は二つある。一つめは,パソコンそのものの電源をどうするかという問題であり,二つめは車両全体の電源システムに関する問題だ。
まずは,パソコン側の問題から考えてみよう。ノートPCは,外部電源に相当するDC-DCコンバータを装備するか,20W程度のACインバータで十分だが,デスクトップPCを装備するためには,これでは明らかに能力不足だ。
そもそも,デスクトップPCには安定した出力が必要だ。市販されている車載用ACインバータは,100V出力とはいっても矩形波であったり,周波数が50/60Hzではない製品が多い。また,供給電圧の変動で出力電圧も変動するし,一定電圧以下になると(バッテリー保護のために)突然停止する仕様のものがほとんどだ。これでは,パソコンの安定動作を期待することはできないし,UPSを使うこともできない。
一番いいのは,直接マザーボードに供給する電圧を作るための電源部(ノートPCの電源部のようなもの)を自作すること。これなら,効率もいいので長時間運用も楽になるはずだ。
次に,車両全体の電源問題を考えてみよう。車両に装備されているバッテリーをパソコンの電力供給源として考えると,長時間駐車時や夜間走行時など充電が不十分な状態が続くと,エンジンが止まってしまい,かからなくなる恐れがある。また,エンジン始動時には電圧降下が大きく,パソコンにエラーが発生する可能性が高くなる。そこで,自動車用のメインバッテリーとは別 に,パソコン用にサブバッテリーを搭載することを考えるべきだろう。サブバッテリーは,エンジン稼働時に充電するのはいうまでもないが,商用電源の確保が可能な場所では,簡単に充電できるように充電器を車載しておく。
なお,商用電源供給時も,これを直接パソコンの電源に送り込むことは避けたい。万一コンセントが抜けたときに,パソコンが停電トラブルを引き起こすからだ。サブバッテリーに充電しながら,これを利用することで,実質的なUPSとして機能させるほうが好ましい。
●震動 デスクトップPCを車載(固定)する場合でも,走行中使用しないのならあまり心配する必要はないが,走行時にも使用するには震動対策は必須となる。
一つめの対策方法は2.5インチHDDを採用すること。ヘッドの質量が小さければ小さいほど,震動に強くなるからだ。HDD自体の取り付けにも工夫が必要になる。防震ゴムで保護するのはもちろんだが,車内での取り付け位 置もなるべく前輪と後輪の中央あたりになるようにしたほうがいい。さらに,凸 凹を乗り越えるときの衝撃を考えると,蕎麦屋の岡持風の取り付け方も考えるべきかもしれない。
●ノイズ対策 車両が走行するときに発生するノイズも,パソコンにとっては大敵だ。パソコンの筐体やケーブル類にシールドを施すのはいうまでもないが,電位 差による静電ノイズ対策として,車両のドアやボンネットなどもボンディング線でつなぐといいだろう。
●温度やほこり対策 自動車内の温度や湿度の変化は極端だ。地域によって異なるが炎天下では数分でプラス60℃以上になるし,冬はマイナス15℃を超えるという。冬場には,結露対策も考慮しなければならないだろう。CPUへの冷却ファン装着は当然として,パソコンの筐体部に断熱材を入れることも考えたい。断熱材は,同時にほこり対策にもなるので一石二鳥だ。
また,車両全体の温度対策としても考える必要があるが,暖房についてはサブバッテリー利用の電熱で対応できるので今回は省略し,熱対策に絞り込むことにした。車室全体,とくに天井に断熱材を入れ,換気口を付けることで車内温度の上昇を最小限に抑える工夫をする予定である。
●遮光 パソコンを車載するときに忘れがちなのが遮光対策だ。屋内と違い,強い日ざしが直接車内に入りやすいので,液晶ディスプレイはもちろん,CRTでも見にくくなる。窓に遮光フィルムを貼ったり,カーテンを装備するなどの工夫が必要だ。
●その他 個々の問題点と対策はおおよそ以上のような内容だが,これらの組み合わせで問題になるのが,プリンタの選択だ。インクジェットプリンタでは震動による気泡の発生や高温環境での蒸発による目詰まりなどの問題があり,レーザープリンタでは高温環境でのトナーの硬化が問題になる。
いろいろと検討した結果,昇華型プリンタがいいだろうという結論に達したので,今回はこれを採用する予定でいる。
これまで述べてきたようなアイデアを具体的に盛り込んだのが,下のイラストだ。「Mobile Computing Car」のおおよそのイメージはつかめるだろう。
さて,次回はいよいよ車体の改造に着手することになる。初代「Mobile Home Office」の改造を手がけたロータスRV販売の協力を得ながら,自ら改造作業にチャレンジする予定なので楽しみにしてほしい。
なお,車両完成後は,誌上オークションを予定しているので,読者からの要望や意見も期待している。編集部宛に送ってほしい。また,NIFTY Serve SOHOフォーラム「Mobile Home Officeを作ろう!!」でも,自由に発言してほしい。
Mobile Computing Car 完成予想図
1 携帯電話アンテナ 携帯電話アンテナは,最も効率がよく見た目もカッコいいセパレートタイプ。左右に付けることで指向性のバランスもよくなる
2 GPSアンテナ ルーフトップのセンターに付けるのはGPSアンテナ。なるべく高い位 置に付けることで車外ノイズを軽減し,受信しやすくするためにもこの位 置がいい。接続するのは助手席のノートPCなので,カードタイプを用意する
3 窓 今回選んだ仕様では後部車室に窓がないので,左側には上位グレードにある窓を付けるが,遮光性を考え色付きガラスにする。車体右側は断熱材を入れるので,黒いシールでダミーの窓にする
4 EL発光パネル 上部窓のスペースには「EL発光パネル」を貼る。ロゴマークを入れるためのスペースだ
5 外部電源入力端子 長時間駐車時に,パソコンを使うための電源は車外から引き込みたい。引き込み口を防水端子にするのはいうまでもない
6 CCDカメラ 特徴的な後部車室の前面には,CCDカメラ用の窓を付けてみた。走行時の前方風景はF1レースなどでもおなじみだし,録画して道案内とかにも使えそうだ
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7 ノートPC 助手席には,走行中に使用するGPS用ノートPCを装備する。運転席からの視界を妨げず,衝突時の安全性を考えると,グローブボックスの位 置に埋め込むのが美しい
8 携帯電話 車載する携帯電話は,DoCoMo DoPaがいい。パケット通信が利用できるので,常時つなぎっぱなしでもデータの送受信をしなければ料金がかからない
9 液晶モニター メインPCのモニターは液晶タイプ。左右に首を振ることで,車内からも車外からも確認できるようにする
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10 キーボード/マウス 後部テーブルに置くのはキーボードとマウス。走行時に転がらないよう,収納も考える
11 跳ね上げ式テーブル キーボードやマウスを載せるテーブルは,脱着式。後部ドアから乗り込むときに邪魔にならないための工夫だ
12 収納スペース/棚 車体右側の棚は,収納スペースを兼ねている。棚の上にはスキャナやプリンタ,テレビ,FAXなどを載せて使う。中は,サブバッテリーと充電機器が入る電源室と,マザーボードが入るPC筐体室で構成される
13 作業椅子 後ろ向きに座る作業椅子は,構造などの制限を受けたくないので,乗車定員には含まない。走行時に使用しない椅子は,座面 だけを確保しておけば座椅子などでもかまわない
14 スピーカー パソコンの音響スピーカーは,後部車室の四隅に配置し,「Sound Blaster Live」の4チャネルサラウンドを楽しめる
15 マイク パソコン用マイクは,収納庫兼用の棚に固定してスタジオ風の雰囲気を作り出す