前回は,各種電子地図ソフトによるルート検索や「Navin'You Ver.4.0」を使ったカーナビゲーションの実際を紹介した。ところで,「Mobile Computing Car」の元々のコンセプトは,出先で取り込んだ映像や音楽などをその場で編集し,音楽CDやビデオCDを手軽に作成できる“移動デジタル編集スタジオ”。そこで今回は,利用編第二弾として,秋深まる箱根を舞台に,自然の映像や音で構成する“旅の思い出CDアルバム”を作成することにした。
嫁ぎ先の決まった「Mobile Computing Car」
今年2月のナンバー登録から半年以上が過ぎ,一とおりの季節を体験した「Mobile Computing Car」だが,ついに手放すときがやってきた。新オーナーは,筆者の知人であるD氏。DOS/V Magazine Custom本誌やWeb上の連載を読んで,このクルマに興味を持っていたらしい。ある日突然クルマを見学にきたと思ったら,話はとんとん拍子に進み,新オーナーになることが決まってしまった。首都圏に住むサラリーマンなので週末ぐらいしかクルマは使わないという話だが,パソコンやAVが好きな人なので秋葉原当たりに出没することになるのだろう。筆者も「Mobile Home Office」1号車で首都圏を走り回っているので,どこかで見かけたら気軽に声をかけてほしい。
これまでに筆者の足として,「Mobile Computing Car」が走破した総走行距離は約5000km。マイカーとしては平均的な走行距離だが,「Mobile Home Office」1号車と使い分けていた結果の数字という点を考えれば,かなり走ったほうだろう。「Mobile Computing Car」は編集部所有車なので,なるべく使わないようにしていたのだが,都心でも駐車場に悩まされずにすむ気軽さとGPSカーナビの便利さもあり,ついつい愛用する機会が増えてしまった。それだけ,使いやすいクルマとして仕上がったといえるだろう。
前回の記事では,「車室温度の上昇は少ない」とレポートしたのだが,さすがに今年の夏日本列島を襲った猛暑の中では,気温そのものが高く,断熱や放熱という消極的な対策では十分とはいえなかった。エンジンを停めてエアコンを切った車内で長時間の作業を行う気にはなれず,助手席のノートPCをカーナビ代わりにして,日常の足として走り回る程度しか活用できなかったのだ。
しかし,秋風の吹き始める季節になると,ソーラーファンと天井に組み込んだ断熱材が効果を奏し,エアコンを切った車内での作業も再び快適なものとなった。やはり,猛暑や厳寒の中で長時間作業するときは,それなりの冷暖房を考えないと辛そうだが,とりあえずはエンジンをかけてエアコンを使用すれば解決する。環境保護という観点からは褒められないが,最近は排出ガスがクリーンなアルコール系燃料「GAIAX」も登場したということなので,いずれ試してみたいと考えている。
ちなみに,前回の記事で「助手席のノートPCが直射日光で過熱し,GPSに不具合が生じた」と書いた件は,この夏の猛暑の中でも,断熱マットによる暫定対策で十分な効果が得られたことを報告しておく(写真2)。
一方,UPSを改造した電源部は,容量的な問題もなく,駐車中でも数時間以上デスクトップPCが使用可能だ。また,助手席ノートPCだけなら,一晩以上動作させ続けることもできる(実は,電源を切り忘れたまま放置していただけだったのだが...)。
いよいよ"移動デジタル編集スタジオ"として使う
“PCカーナビ車”として筆者の日常の足となり,首都圏を走り回る「Mobile Computing Car」だが,いよいよ嫁ぎ先も決まり,筆者が活用できる日も残り少なくなったので,使い納めとして箱根へのドライブを計画した。
思い起こせば,連載当初の計画では,出先で取り込んだ映像や音楽をその場で編集し,音楽CDやビデオCDを作成できる“移動デジタル編集スタジオ”として使うことを想定していた。そこで,本連載の締めくくりのドライブレポートは,このテーマで進めるのが良さそうだ。自然の音や映像を取り込んだ「旅の思い出CDアルバム」の作成である。“移動デジタル編集スタジオ”としての「Mobile Computing Car」の実力や使い勝手を報告できるだろう。
折しも,知人のT氏が,Motion JPEG形式で動画撮影可能なデジタルカメラ「FinePix4700Z」を購入したという。さっそく,試し撮りを兼ねて同行してもらうことにした。
ドライブのガイドは,いつもどおり「Navin'You 4.0」だ(写真3)。筆者の住む川越から箱根までは,関越自動車道から都内を経由して東名高速へと向かうルートと,国道16号線から129号線に入り,1号線を通って芦ノ湖に向かうルートの2とおりある。距離的にはるかに大回りとなる高速ルートを通っても,時間的な短縮は難しい。そこで,一般路コースを交通量の少ない早朝に走ることにした。
「Navin'You 4.0」のルートガイドは,ルートを外れても自動的に再設定してくれるので,渋滞しているところではあえて裏道に入ってみることにしたのだが,このときの動作が面白い。最初のうちは,なんとか元のルートに戻そうとするのだが,暫く走るとあきらめて新たなコースを提示してくれるのである。
というわけで,裏道も楽しみながら走っていたら,もう箱根は目前だ。予想以上に早く着いたこともあり,箱根路では旧道を走り,当初心配していた走行中の震動や衝撃によるパソコンへの影響も試すことにした。とはいっても,未舗装の凸凹道というほどではないので,とくに異常は見られない。おそらく,よほどの悪路を爆走しない限り,問題はないだろう(動画1)。
自然の音や製造を収集する
そうこうしているうちに,目的地である箱根に到着した。まずは,CDアルバムの素材となる音や映像の収集だ。秋の気配が色濃くなった箱根は,平日ということもあり,静かなたたずまいを見せている。
最初に向かったのは,芦ノ湖周辺だ。ここでは,木々を渡る野鳥の声や芦ノ湖畔の水音を収録することにした(写真4,5)。
機動力という点では,デジタル録音できるMDレコーダーを持ち歩く方がいいのだろう。しかし,PCへの取り込みやファイリングの容易さなどを考え,道路脇に停めた「Mobile Computing Car」からコードを伸ばし,直接PCに取り込むことにした。
使用したソフトは,デジオンの「DigiOnSound」。波形表示を見ながらマルチトラック編集やエフェクト処理もできるし,動画ファイルと連動させることもできる優れものだ(画面1)。
音の収録に続き,写真や動画の撮影も行う。
今回使用した「FinePix4700Z」は,スマートメディアを記録媒体とするデジタルカメラだが,動画の撮影も可能なのでさっそく試してみることにした(写真6,動画2,3)。
録画可能な時間は,4MBカードでも約22秒。64MBカードを使えば約6分の動画を撮影できるという。最も,ビデオ撮影のコツとしては,1回のカットを15~30秒程度に収めるのがいいらしい。データを吸い上げるためのノートPCを持って行けば,32MBカードでも計約3分の撮影が可能なので,ちょっとしたムービー撮影には十分だろう(写真7)。
筆者愛用のノートPCはHDD容量も少ないし,「Mobile Computing Car」のデスクトップPCにはPCカードスロットが装備されていない。しかし,車内LANで簡単につなげられるので,写真や動画ファイルの取り込みに不都合はない(写真8)。
「FinePix4700Z」で撮影された写真は一般的なJPEG形式,動画はMotion JPEG形式(拡張子はAVI)で録画される。QuickTime 2.0以上で再生可能なので,車内LAN経由でデスクトップPCに取り込めば,撮影後すぐに大画面で確認することができる。メモリカードの残容量を心配しないですむのがうれしいところだ。収録した音や写真,動画は,とりあえずデスクトップPCのHDDに保存しておく。場合によっては,素材保存用のCD-Rに焼いておいてもいいだろう。
素材を編集してCDアルバムを作る
ノ湖を後にした筆者たちは,大涌谷や仙石原など,箱根の名所をいくつか回って素材の収集を行った(動画4,5)。もちろん,大涌谷では名物の黒卵を食したのはいうまでもない。ロケ地を変え,これらの作業を繰り返していると,時の経つのは早いもので,しだいに日が西に傾きはじめてきた。
こで,道路脇にクルマを停め,収集した素材の整理とCDアルバムの作成に取りかかることにした(写真9)。
後部ドアを開けていると,秋風が心地よく,箱根の景色を楽しみながら作業を進められる。まさに,“移動デジタル編集スタジオ”ならではの醍醐味といっていいだろう(写真10)。
素材のセレクトが終わったら,あとはCD-Rに焼くだけだ(画面2,3)。秋深まる箱根の風景や音を収録した「旅の思い出CDアルバム」は,無事完成した(写真11)。
これから帰路につくと夕方の渋滞に巻き込まれそうなので,もうしばらく暮れなずむ箱根の景色を楽しむことにしよう。さて,次は何処へ向かおうか。「Navin'You 4.0」と相談してみることにしよう。
コラム:「モバイル@ステップワゴン」や「走るオフィス仕様ハイヤー」が登場
今春,名古屋のキャンピング車メーカー「ホワイトハウス」から,ステップワゴンをベースにしたモバイルオフィスカー「モバイル@ステップワゴン」が発売された。筆者の「Mobile Home Office」と同じような主旨で開発されたものだが,標準仕様のワゴン車にサブバッテリーと簡易テーブル,DC-ACインバータを積んだだけの軽装備に留めることで価格を抑えているという。
また,今夏タクシー・ハイヤー業界最大手の日本交通は,子会社「日交マイクル」を設立し,ミニバンに会議机とパソコン用電源を装備した「モバイルオフィス」仕様のクルマで会員制ハイヤー事業を始めた(写真12)。女性や英会話の堪能な人材を揃えた運転手とは守秘義務契約を結び,情報機器を使用するビジネスマンや来日する外資系企業の幹部社員の送迎などを対象に営業するという。
相次いで「モバイルオフィス」仕様のクルマが登場したわけだが,それだけ「クルマ+パソコンオフィス」というニーズが高まってきている証拠だろう。筆者自身も,一連の車両製作で協力いただいたロータスRV販売(株)とともに,一般個人ユーザーを対象とした廉価版「モバイルオフィス」仕様車の開発を始めたところだ。期待して待っていてほしい。
コラム:簡易改造で車室を広く使う
「Mobile Computing Car」や「Mobile Home Office」1号車のような本格的な改造までは手が出せないが,市販車を使ってモバイルを楽しもうという人は多いはずだ。しかし,ハイトワゴンやミニバンクラスでは,車内高が低すぎて長時間過ごすにはかなり辛い。
そこで,ハイルーフ仕様車やポップアップルーフ車を選択する人も少なくないのだが,ポップアップルーフ車の場合,開いたときには広大な空間が生まれるものの,閉じた状態では標準ルーフ車と同じ室内空間しか確保できないことが弱点になる。郊外のキャンプ場や河川敷では堂々と広げられるポップアップルーフも,都心の路上や駐車場で広げると目立ちすぎるからだ。筆者が「Mobile Home Office」として超ハイルーフ改造車を選んだ理由も,実はここにある。元々超ハイルーフなので,路上に駐車したまま室内作業をしていても目立たないからだ。
「Mobile Home Office」1号車のベース車である「ボンゴフレンディ」には,電動ポップアップルーフを持つ「フレンディAFT」という車種が用意されている(写真13)。
メーカー仕様のポップアップルーフ車として,屋根の上にテント空間を装備したアウトドア派に人気のクルマだ。今回,この「フレンディAFT」のFRPシェルをハイルーフ化し,閉じた状態でもある程度の空間を確保できる専用のパーツが登場した(写真14,15)。
発売元は,「Mobile Computing Car」の改造作業でも協力してもらったロータスRV販売(株)。FRP製のハイルーフ(無塗装)は17万8000円で,取り付け工事費は2万5000円だという。ほかにオプションとして,拡張したルーフ部に付ける収納ボックスなどもあるので,「フレンディAFT」オーナーなら一度考えてみる価値はありそうだ。