税金の納付とナンバーの交付
検査が済むと,重量税と自動車税の納付だ。ところで,改造前の車両では1,530kgだった車両総重量 が,改造後は1,325kgに減っている。
そのため,課税ランクが一つ下がるといううれしい結果となった。さらに,事務室車化したことで,重量 税は2万5200円で済むのである。ちなみに,元の貨物車のままだと2年分で1万7600円だが,改造後の車両と同重量 の乗用車の場合は3万7800円となる。
また,自動車税も,年額では1万1500円(埼玉県)と,乗用車の場合(同3万4500円)に比べるとはるかに割安だ。ただし,自賠責保険は,乗用車が24か月で2万7600円なのに対し,事務室車は3万2450円と割高になる。
税金を納め,ようやくナンバープレートを受け取ることができた。ホッとする一瞬だ。
ナンバープレートは,ユーザーが自分自身で取り付けるのだが,まだ終わりではない。
検査官が車体番号と車検証を確認して,後部ナンバープレートの留めネジを封印するからだ。
あは,車検証票ステッカーをフロントガラスの上部真ん中に貼れば,すべて完了だ。これで,正々堂々と公道を走ることができる。「Mobile Comput ing Car」が,改造車として公式に認められた瞬間である。
コラム:特種用途自動車の構造要件が厳しくなる!?
本連載の中で,「キャンピング車」や「事務室車」といった「特種用途自動車」については,税金などの維持費が割安だという話をしてきた。しかし,税金などが安いことに目を付け,最近では不正8ナンバー車が増えてきた。これは,簡易なキッチン設備やアンプを付けただけで「キャンピング車」や「広報宣伝車」として構造変更検査を受け,その後元に戻して使うというものだ。
そのため運輸省では,「特種用途自動車の構造要件」改正に向けて動き出したようだ。昨年12月に公表された改定案には,構造要件にかかわる設備周辺の車内高を1600mm以上必要とするなど,構造要件にかかわる設備と乗車設備の共用を大幅に制限するための項目がある。このまま実施されると,現在市販されているワゴンやバンを,外観の変更なく特種用途自動車に改造することは不可能に近くなってしまうのである。そこで現在,日本RV協会などが要望書を提出しているという。
しかし,発端となった不正8ナンバー車対策という意図から考えると,大筋は原案どおりになることは間違いない。今後は,メ走りモも楽しめる「Mobile Computing Car」を新たに作ることはできなくなるかもしれない。ただし,改定案は,すでにナンバー交付を受けている車両には適用されない。したがって,今回作成した「Mobile Computing Car」は,今後も堂々と事務室車として使い続けることができるわけだ。(特種用途自動車の構造要件についての詳細)
助手席にノートPC用の台をつける
さて,残った作業は,助手席側のダッシュボードを改造して,ノートPC用の据え置き台を設置することだけ。
実は,助手席で快適にノートPCを使いたいという計画は,筆者自身の「Mobile Home Office」製作時にもあったのだ。しかし,昨今の安全思想のおかげで,助手席にもエアバッグが装備されていたことから,実現をあきらめたという経緯がある。エアバッグ装着車では,ダッシュボード周辺に物を載せるだけでも危険なのだ。
しかし,今回ベース車として使用した車両には,エアバッグの装備はない。究極のPCカーを名乗る以上,画面 の大きいノートPCをカーナビ代わりに使うというのは,いわば宿命といってもいい。ぜひとも実現させたいところだ。もちろん,助手席乗員の安全性は確保しなければならないし,運転席からの視界を妨げないことも,「Mobile Computing Car」にとっては重要だ。
まずは,何も改造せずに,ダッシュボードにノートPCを載せてみた。傾斜したフロントガラスのおかげで,十分にディスプレイを開くことができないし,運転席からの視界を遮ることも確認できた。かといって,ダッシュボードの手前に台を追加するのでは,助手席の安全性確保が難しいだろう。やはり,ダッシュボードを切り開き,そこに据え置き台を組み込むという案がベストのようだ。
グローブボックスを外し,ダッシュボード周辺の構造を調べてみた。すると,車体強度を補強するためのパイプが横断しているのに加え,その上には車内換気用ダクトへの樹脂製送風パイプが通 っている。さすがに補強パイプを切るわけにはいかないが,送風パイプはなくても問題なさそうだ。試しに,補強パイプの高さにノートPCをあてがってみると,この高さで奥に引っ込ませることができれば,運転席からの視界を遮ることもないし,衝突時の助手席乗員の安全性も損ねることはなさそうだ。
心配なのは,切り取ったあとのダッシュボードにガタが出ることだ。そこで,ここはプロに任せることにして,毎回お世話になっているロータスRV販売にお願いすることにした。 実際にダッシュボードを切り取ってみると,大きく切り取った割には強度もあり,4面 を組み合わせた棚を仮固定してみたが,具合はよさそうだ。そこで,この棚を元のダッシュボード上面 より少しはみ出す程度に成形し,車室壁面と同じビロード調の生地を貼ることにした。これは見栄えもあるが,ノートPCの滑り止めと,フロントガラスへの映り込みを最小限に留めるための細工でもある。外したグローブボックスで下側のカバーを作り,ケーブル類を固定して,一連の改造作業がめでたく完了した。
完成した「Mobile Computing Car」に試乗する
すべての工程が完了したので,さっそく試乗してみることにした。助手席に設置したノートPCのキーボード位 置が,もともとのグローブボックスより若干手前にあるため,運転席からも十分手が届く。それでいて,助手席に座ったときも邪魔にはならず,シートベルトを締めたままでも操作できるのは,安全性の面 でも合格だろう。これなら,運転手さえいれば,走行中に助手席でパソコン操作に集中することも不可能ではない。
とりあえず,ノートPCでGPS対応の電子地図ソフトを起動し,走り出してみた。走行に合わせてディスプレイの画面 が変わっていくのだが,垂直に立てた液晶ディスプレイは太陽光の直射もほとんどなく,運転席からでも十分に見える。また,夜間走行時もディスプレイの照度を落とす必要はなく,運転手にはほとんど気にならないだろう。
それよりも,夜間は隣の車線を走行している車からもよく見えるらしく,信号待ちのときや渋滞時に熱い視線を感じることが多かった。
一方,後部車室のデスクトップ(デスクイン?)PCのほうも快適だ。こちらも,試験的に走行中も稼働させてみたのだが,今のところHDDにもとくに問題は発生していない。走行中に専用の椅子に座ってPCを操作することは法律で禁止されているし,CD-Rへの書き込みは不安があるが,PCそのものの操作なら後部座席からでもできそうだ。
(車内パノラマ画像)
☆ ☆ ☆ ☆
今回で一通りの改造作業を終了したが,連載開始時に考えていたものよりも,はるかに完成度の高い「Mobile Computing Car」ができ上がったことに満足している。PC周りの装備は,これまでにも書いてきたので省略するが,後部の床は身体を伸ばして寝られるだけのスペースが残っている。収納庫も多いうえに,後部床下にもかなりのスペースが残っているので,乗用車としての実用性は少しも損なわれていないのがうれしい。
できることなら,手元に残しておきたいと思うのだが,すでに初代「Mobile Home Office」も所有しているので,さすがに2台所有する予算はない。残念ながら諦めざるをえないだろう。
しかし、その前に「Mobile Computing Car」の実用レポートをお送りする。次号を楽しみに待っていて欲しい。
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